空の旅
僕は空の旅が好きだ。
自然の原風景に思いを馳せる極上の時間。
会長との同行では、着陸後すぐに出なければならないため、通路側に陣取る。今回は担当レベルで前入りし会長一行を迎えるため、空いている窓側に席を移動させてもらったのだ。
機体がインドのパトナ上空に差し掛かったあたりで、右手はるか奥に雪化粧した真っ白な山の頂がが見えた。
少し雲が邪魔をしているが、インディゴブルーの空と境界を作るように、顔を出した純白の山頂に見とれてしまった。
チョモランマとローッエであった。
キャビンアテンダントさんによると、曇が多くて見えないという予想だったそうだが、子どものように窓に張り付く僕に暖かく「見えて良かったですね」と微笑みかけてくれた。
こうして眺めてみると、8000メートル級であろう尾根尾根が雲の隙間からぴょこぴょこと顔を出していてどれがチョモランマかわからなくなるほど神々しい。
尖っているもの、なだらかに三角形の形をしているもの、さまざなま顔を見ることができ飽きることがない。
僕は一眼レフカメラを預けてしまったことを悔いた。
仕方なく手元のスマートホンのタッチパネルで、ピントを必死に合わせながらシャッターを切った。
「画面を通してばかり見ないで直視してくれ。その瞬間を切り取るなんて誰にもできやしないのだからと」
世界の屋根が語りかけてきた。